許容濃度と管理濃度

2016年に日本産業衛生学会が、1-ブロモプロパンの作業者暴露許容濃度(以下、許容濃度)を0.5ppmとするように勧告を行いました。この許容濃度とは、労働者が1 日8 時間、1 週間40 時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有害物質に暴露される場合に、当該有害物質の平均暴露濃度がこの数値以下であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度である(厚生労働省のサイトより抜粋)。ちょっと難しい表現ですが、例えば10ppmの蒸気が漂う部屋で作業者が1日8時間ずっと過ごしたら、その作業者の暴露された濃度は10ppmです。また、1分間だけその部屋に入って、残りの7時間59分(479分)をそれ以外の場所で過ごした作業者の暴露濃度は、下記の式(1)の通り0.02ppmとなります。10分間過ごした場合では、下記式(2)の通り0.2ppmです。

(式1)10ppm ÷ (1分/480分)=0.02083

(式2)10ppm ÷ (10分/480分)=0.2083

一方で、厚生労働省が定めている管理濃度とは、洗浄作業を例に取ると、洗浄機が置かれているその部屋の濃度です。上記の例だと10ppmです(下図参照)。但し、対象化学物質の種類により、A測定(部屋の平均的な濃度)やB測定(作業者の近傍)の2つの測定方法がありますが、とにかく許容濃度との違いは、作業場の濃度そのものです。因みに、管理濃度は、前述の通り厚生労働省が定めていますので、当然法令です。我々はそれを守る義務があります。

さて、ここで困った事が起こっています。

最近、一部の作業環境測定業者さんが、この1-ブロモプロパンを使用いただいているお客様の作業場において濃度測定を行い、その報告書に「Xppmだったので、0.5ppmという規制から、不可である状況です」とのコメントがつけられていました。

ちょっと待った!

その作業環境測定業者さんが測定しているのは、あくまで部屋の定点測定濃度であって、上記の例で言うと、「管理濃度」と同じ項目を測定しているものです。にもかかわらず、あくまで学術団体である日本産業衛生学会の勧告数値を法律であるがごとく記載し、違法と断定していました。驚きです。一部の専門家でも許容濃度と管理濃度の区別がついていませんでした。

我々技術者は、公正に言うなら学術学会の定める許容濃度を(その科学的根拠論を抜きにすれば)尊重しますし、また当然ながら今後厚生労働省が定めようとしている管理濃度についてもそれが法的拘束力を持つものである事から、当然ながら尊重しなければなりません。
しかしながら、許容濃度と管理濃度の混同(意図的混同も含め)は、我々が厳しく見守っていかねばならないと思います。それと同時に、臭素系溶剤使用者の方々への啓蒙活動も行っていかなければならないと思うこの頃です。